生まれ変わったら愛されたい〜元引きこもりニートの理想の異世界転生〜
人酔いしたのだろうか?

健康優良児で通してきたハルルだったが、王都に着いてしばらくすると謎の目眩に襲われた。

「いかがなされましたか?深窓の令嬢ハルル様はことさら人混みに弱いと見受けられる」

クスクスと笑う腹黒策士が憎い。

本当に気分が悪いというのに、日焼けして健康な見た目のハルルからはその悲壮感が全く伝わらないらしい。

おまけに”お腹が空いたでしょう?”と、妙な気を利かせて屋台のB級グルメを買い与えようとしてくる始末。

気が利かないとはこの男のことだと思う。

ここにミシェルかロゼレムがいたなら、有無を言わせずベッドに直行されていただろうに・・・。

あんなシスコンと親ばかでも離れれば懐かしく感じるものなのだな、と、ハルルはこみ上げる不快感を誤魔化しながら腹黒策士に腕を取られ引きずられていた。

「ところで、貴方様のお名前は?」

結構な時間、ハルルとルグランは一緒に行動を共にしているのだが、コミュニケーションの初歩、名前の確認をハルルは怠っていた。

この腹黒策士の名前を知らない。

いや、敢えて聞いていなかったとも言えるが、そのことに今更ながら気がついたのである。

本当は名前なんて知らなくても構わないのだが、”モノクル腹黒策士”は長いから面倒・・・いや不便なのである。

「これは失礼。聞かれないので興味はないのかと思っておりました」

全くもってその通りなのだが、これ以上会話するのもきつくなって来たのでハルルは黙り込んだ。

「ルグラン・ブルーライト、王族専属の魔術師にございます。以後お見知りおきを」

「はい、はい」

段々と立っている気力もなくなり何もかもがどうでも良くなりつつあったのだが、倒れるかな?と思った瞬間、急激にいつもの体力が戻ってくるのが感じられた。

「?」

不思議な現象に首を傾げるハルルに

「この食べ物はハンバーガーと言って、庶民のB級グルメです。待ちきれないからといってよだれを垂らさないで下さい」

”ヨダレなんて垂らしてない”

文句の一つも言いたくなったが、目の前のハンバーガーを見て食欲を満たすという誘惑に負けた。

前世では宅配してもらってよく食べていたハンバーガーも今世では初めて食する。

”王都には自分以外の転生者がいるのかもしれない“

そんな淡い期待を胸に抱きながらも、先程まで気分が悪かったことなど忘れて、ハルルは受け取ったハンバーガーにかぶりついた。

警戒心より食欲・・・。

それはハルルの強みでもあり、欠点でもあった。
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