生まれ変わったら愛されたい〜元引きこもりニートの理想の異世界転生〜
「ハルルが誘拐された場合に備えて、居場所がわかるような何かを準備してはいなかったのか?」

心当たりを虱潰しにあたるという原始的な方法を選んでいるあたりで、その線は期待できないとハウルもわかってはいたのだが、念のためにミシェルに尋ねてみた。

「ブレスレットの位置確認装置を持たせていた。だが、ハルルの気配が全く感じられないところをみると、おそらくルグランがブレスレットに触れて魔石の力を無効化したのだろう。僕の許可なくハルルに触れるなんて絶対に許せない」

許可を取ったところで、ミシェルがルグランを許すはずはない。

「ああ、あいつはこの国1番の魔術師だ。それぐらい簡単な所業だろうな」

「今はこの体調の良し悪しでしかハルルとの距離を推し測ることができない。生まれて初めて家族から離されたハルルは寂しくて泣いてはいないだろうか・・・」

いつもなら鼻で笑うレベルの甘やかしぶりだが、今回ばかりはハウルもまたミシェルと同様に心配が絶えない。

ハルルを害するとは思えないが、ハルルを手中に落としたいとの目論見は明らかなのである。

未だハルルの行き先は掴めない。

八方塞がりとは正にこのこと。

何もできない自分達に苛立ちばかりが募っていく。

ハルルはいつも自分のことは後回しで、島に起こりうる不測の事態を見越して何らかの対処をしていた。

自分達だって、近い将来、ハルルが何らかのトラブルに巻き込まれるかもしれない、と予測を立てていたにも関わらず平和な現状を見誤ってこのザマだ。

情けなさに、二人はぼんやりと街の人混みの流れを眺めていた。

···そんな矢先のことだった。

昼間から酒を提供するような男性向けのバーから、酔っぱらい貴族とその友人らしき二人が、ミシェルとハウルの前に突如姿を見せたのである。

突然のことに驚きを隠せずにいたが、ハウルとミシェルは顔を顰めながらも道を譲った。

面倒に巻き込まれる前に急いで立ち去ろう、と歩みを進めたミシェルとハウルだったが、聞こえてきた男達の話の内容は、到底見過ごすことのできないものであった。  

「本当に奢ってもらっても良かったんですか?随分飲み食いしたはずですけど、ヤナックさんにだけ支払わせるのはバツが悪いです」

酔っぱらい貴族を支えている気弱そうな男がそう言うと、

「なに、王都一の魔術士様に僻地の別荘を売った金がたんまり入ったんだ。酒の一杯や二杯、何度だって奢ってやるさ」

貴族男は、酔っぱらい特有の大胆さでドンと胸を叩いて答えた。

”王都一の魔術士?”

ハウルとミシェルは、そのワードを聞き、思わず立ち止まって二人の話に聞き入った。
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