私に恋を教えてください
菅沼凌平(すがぬまりょうへい)。
彼はもともと須藤とは同僚だった。

けれど独立し、今は自分の会社を立ち上げている。
侑也の部下であった事もあるし東条瑛とも面識があった。

だからこそこんなところで声をかけてきたのだろう。

「菅沼社長、僕はまだ社長ではないですよ」
にっこりと笑って瑛が返す。

菅沼も笑顔を返した。
「とっくに社長になっているものかと思いましたよ」

「まだ父が健在ですから」
「それでもこの分野は経営者が若くないとね」

おそらく瑛の父親である東条優は、そんなことは分かっている。
だから優は瑛達、若い取締役の意見を積極的に取り入れているのだ。

それでも父のパイプは固いし、経営者としていてくれるから瑛も侑也も自由に動けているのだ。

「むしろ父がいてくれるから、うちはいい社風なんだと思いますし、大手企業の信頼を頂けている。ありがたいことですよ」

それも、間違いはないことだ。
にこりと笑った瑛の落ち着いた返答に、菅沼が一瞬言葉に詰まった時、
「駆琉……」
と声が聞こえた。
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