今は秘書の時間ではありません
マンションの目の前に白の高級車が停まっている。
珍しいなぁ、と車を横目に通り過ぎようとしたその時、

「紗奈ちゃーん!」

私はギョッとして振り返る。
すると車の中から手を振る社長。

ヤバっ!

昨日辞めると啖呵を切ってしまったので何か言いにきたのだろうか…

ヤバイ!

買い物袋を手に走り出す。

すると社長はすぐに降りてきて追いつかれた。

「紗奈ちゃん、なんで逃げるのー?」

「昨日は申し訳ありませんでした。でも…私には力不足ですのでもう辞めさせていただきたいと思います。申し訳ございませんでした。」

そう頭を下げ、私はまた逃げるようにエレベーターへ向かった。
が、昨日とは違い言い逃げ出来なかった。

社長は私の手を掴んで足を止めさせた。

「俺からも話があるから聞いてくれないか。」

いつになく真面目な社長に驚かされた。

「どこかで話を聞いて欲しいんだ。その話を聞いて辞めるか判断して欲しい。それに俺は君に辞めて欲しいとは思っていない。」

どういうこと?
なんだかよくわからない。

「あの…ひとまずお話は月曜日に伺わせていただきます。今日はお引き取りください。」

「今日はダメなのか?」

「今日お休みですし、私こんな格好のままなので…申し訳ありません。」

「格好なら気にならない。」

「私が気にするんです!」
と語気強めに言ってしまった。

唖然とした表情の社長。
「アハハハハ。君は素の方がいいね。秘書として凛としてる姿もいいが酔っ払ってる君や今の君の方がいいよ。」

酔った私??
何を言ってるのかちっともわからない。
そもそも何を言いたいのかもわからない。
帰ってもらいたいのに帰らない。
埒があかず困ってしまう。
< 23 / 108 >

この作品をシェア

pagetop