今は秘書の時間ではありません
田中と友永さんは隣同士にすわり、俺は田中の向かいに座った。

2人は最近おすすめの店の話で盛り上がる。
俺は愛想笑いを浮かべ参加できずにいる。
俺はアホ社長の間お姉さんの店くらいしか行ってなかったし、東京も久しぶりだからちっとも分からない。

友永さんが気を遣って、
「社長は何がお好きですか?」
と聞いてきてくれる。

「なんでも好きだよ。」

「嫌いなものはないんですね。」

会話が途切れてしまった。
普段なら軽口がぽんぽん出てくるが今日は出てこない。

そんな俺の様子に苦笑した田中がまた話を振ってきた。
「最近みっちゃんが抱っこって手を伸ばすようになったんだよー。もう可愛くてさ。」

「みっちゃーん!もうそんなことできるんですか?」

「ヤバいんだよ。なんであんなに可愛いんだか。みっちゃんのために長生きしないと。」

「まだ若いじゃないですか。ひ孫まで余裕ですよ。」

「みっちゃんってだれ?」

「私の孫です。見ますか?」

スマホのアルバムから可愛らしい女の子の赤ちゃんが出てきた。
生まれたの頃からのものが何百枚と入っている。
スクロールすると徐々に大きくなってきておりおすわりしてるものもあった。

「可愛いですね。」

「そうなんです。私の初孫なんです。」

「初孫?!」

「はい。私の可愛い可愛い初孫の美月(みづき)ちゃんこと、みっちゃんです。」

「えぇー!!!孫がいるんですか?」

「えぇ。私も60ですからいてもおかしくないですよ。」

「60?!」

「はい。だから取りませんよ。大丈夫です。」

「…」

なんだか見透かされたようで俺の目が泳ぐ。

「社長、みっちゃんはめちゃくちゃ可愛いんです。動画とか私も送ってもらっちゃいました。」

「そうか。」

田中は笑いながら俺の顔を見る。
絶対わかってるだろ。
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