今は秘書の時間ではありません
ガチャ…

鍵が開いた。
ドアが少しだけ開いた。

ボロボロに泣いた彼女の姿が見える。

手で口を押さえ泣き声を殺している。 

目元は涙があふれている。

俺はつい手を伸ばしてしまった。

彼女の涙を拭いてあげたい、と…。
彼女の涙は止まることなく溢れてくる。

小さく開いたドアから彼女を引くように俺の方へ抱き寄せた。

「泣かせてごめんな。」

フルフルする彼女の頭をなぜながら俺の手の中にいることに安心する。

「君は秘書として素晴らしいよ…申し分ないよ。俺が足を引っ張ってるだけで。」

「そんなことない。社長はいつだってなんだって自分でやれる人です。秘書はいらないと思いました。私のやってる事ってなんなんだろうって考えれば考えるほど必要なことがわからなくて。私が作らなくても社長は資料を作ることも読み解くこともできます。スケジュール管理もできます。会食に行っても自ら相手のリサーチをしてから行ってますよね。私の存在意義がわからなかったんです。社長の尻拭いをしていたときの方が仕事をしていた気がしました。今は社長が凄すぎて私にはついていけないと思いました。」

「そんなことない。君がいなけば始まらないこともある。先頭に立つ存在ではないかもしれないけれど君は明らかに縁の下の力持ちだ!必要な人間だ。」

「ぐす…ありがとうございます。」

「ありがとう。出てきてくれて。」
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