今は秘書の時間ではありません
2人でぶらぶらしたあと、そのままショッピングモールへ向かった。

私はたまたま店頭にあった髪飾りに目をひかれた。
でも…と思い立ち止まらず歩くと腕を掴まれた。

「ここに寄っていい?」

有無を言わさずお店に入る。

私が目をひかれた髪飾りを店員さんに見せてもらうよう頼んでいる。

パールとアメジストのついたヘアコームで落ち着いた雰囲気の中にも可愛さがある。

さっきは立ち止まるのを諦めたのに一樹はすぐに気が付いたくれた。

手に取ってみると角度によってアメジストの色が変わり素敵。
欲しい!
たまの贅沢だわ、と心に決め店員さんにお会計をお願いしようとすると一樹がスマートにカードを店員さんに渡す。

私が払う、というと『今日の記念に』と言ってくれる。

一樹はいつもこんなに優しいの?
とちょっと不安になる。
以前お姉さん達と遊んでいたこともホテルまでお迎えに行ったこともあった。
一樹がそれなりに遊んでいることは重々承知している。
承知していたはず…だった。
でも優しい一樹に嬉しいのではなく不安になる。
みんなもきっとプレゼントされてる…よね。
こうやって甘い言葉をかけられてるの?
でもいつか振られちゃうの?
あの数ヶ月の間に見かけた人は複数いた。
そんな早い期間で振られちゃうの?
さっきまでそんなこと思ってなかったのに急に不安が襲ってくる。
ネガティブなサイクルにはまり始めたその時、

「紗奈。」
声をかけられ、ふと我に返った。

そこには満面の笑みの一樹の顔があった。

私だけに笑ってくれるの?
いつまで?

目が潤んできてしまう。

いけない…

「ちょっとトイレに行ってきますね。」

慌てて立ち去ろうとする私の手を握る。

「どうして逃げるの?ちゃんと言ってくれないと俺には分からない。教えてよ。」

「…」

ポロポロと涙が溢れてきた。

柱の影になったところにあるベンチを見つけ、私を壁側にしてみんなに見えないように座ってくれた。
< 90 / 108 >

この作品をシェア

pagetop