今は秘書の時間ではありません
「どうして泣くの?」

「急に…不安になって…。」

「私、秘書だったからこそ一樹が遊んでたの知ってる…。」 

「あ…あぁ。そうか。」

「だからプレゼントもらえるの嬉しいけどみんなにあげてきたんだろうなって。それにみんな長くなかったよね。だから私もこうやって優しくしてもらえたりするのは長くなくて振られるのかなって急に思って。」

「店には行ったけどお付き合い程度で長居してない。社にかけてきたのは俺が携帯教えないから営業の電話だよ。紗奈には誠実でありたいから本当のことを言うけど、ホテルに女の人といたこともあるから全てが嘘とは言えない。でも特定の人はいなかった。恥ずかしいけどその場だけの関係だった。」

聞きたかったけど聞きたくなかった。
真面目だとは思わないけどやっぱり遊んでいたよね。
私にはやっぱり無理。役不足だよ。
こんな人と付き合っていける自信ない。

何も言えなくて涙が溢れるばかり。
上手く言葉に出来なくて、自分の気持ちを持て余してしまう。

一樹に抱きしめられた。
そして掠れるような声が聞こえてきた。

「無理だなんて言わないで…。」

一樹の絞り出すような声が私の心を揺さぶり始める。

「たしかに今まで俺は特定の人とは付き合わずその場限りだなんて馬鹿なことしていた。付き合うなんて面倒くさいとさえ思ってた。だからその場の雰囲気や流れでそうなってもその時だけ。そういう人ばかり選んできた。」

「…」

「でもさ。俺昨日も言ったけど紗奈に惹かれ、惚れてからは誰ともそういうことはしてない。他の人に触れたいと思えなくなった。」

一樹は小さな声で話し続ける。

「俺はさ、紗奈に触れたいって思ってた。けど実際に触れたい、じゃなくて紗奈の心に触れたいって思ってた。だから紗奈はまだ俺をじっくり見ていて。紗奈が俺を信用できるまで紗奈のそばにいるだけでいいんだ。」

「…」

「ごめん、つい可愛い過ぎてちょっとだけキスしちゃった。でももうやめる。いいっていうまで手を出さないでいるって誓える。俺の一生を紗奈にあげるよ。紗奈の信用を勝ち取れるよう俺の全てをかけるよ。」

そこまで言ってくれる一樹に抱きついたまま離れられない。

「どうしてそこまでいってくれるの?」

「もう紗奈しか欲しくない。紗奈以外に欲しいものなんて何もない。」

「本当にそう思う?嘘はつかない?浮気はしないの??」

「絶対にしない!」

「一樹を信じたい…。」

「信じてもらえるよう紗奈と向き合っていきたい。俺鈍いから言ってくれないとわからないこともあるんだ。だからどんどん言って欲しい。不安なことは伝えて。紗奈が不安でいたなんて後から聞いたらショックだから。」

「うん。言えるように努力する。努力したい。」

「ありがとう。」
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