どうにもこうにも~出会い編~
 夜。居酒屋のカウンターを拭きながら時計を見ると、8時を回ろうとしていた。本当に彼は来るんだろうか。店の隅に置かれた青いチェック柄の傘に目をやる。
 

 ガラガラガラ。


「いらっしゃいませー!あ、西島さん!本当に来たんですね」

「もちろん。約束しましたから」

 彼はいつものカウンターの隅の席に座った。

「傘、忘れないうちに」

 例の傘を差し出す。

「先日はありがとうございました。傘がなくて困ったんじゃないですか?」

「折り畳み傘を持っているので、大丈夫ですよ」

「そうですか。良かった」

「ケイちゃん、熱燗もういっぽ―ん」

「はーい、ただいまー!すみません、ご注文が決まったらまた伺いに来ますね!」

 かれこれ1カ月ぶりくらいだろうか。西島さんの久しぶりの来店に自然と胸が躍った。気づくと口元が緩んでいた。いけないいけない。

「注文お願いします」

 少し経ってから、西島さんが手を上げた。

「はい、ただいま!」

 今日はビールの中瓶、冷奴ときんぴらごぼうを注文された。いつもは日本酒とか焼酎なのに、ビールを頼むなんて珍しいなと思った。

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