どうにもこうにも~出会い編~
 私がアルバイトをしている居酒屋は、午前1時まで営業しているが、私は午後11時には仕事を上がらせてもらっている。

今日は花の金曜日。今夜は客足が絶えず忙しい日だった。

西島さんと碌に挨拶もできないまま、いつの間にか彼は帰ってしまっていた。

彼が座っていたカウンターの席には、きれいに平らげられた皿とビール瓶とコップとお箸が静かにそこに佇んでいた。

コップの縁につけられた唇の跡と濡れた箸の先が、西島さんが確かにそこいたということを示していた。それを見て、私はなぜだか不意に寂しくなった。


 この居酒屋は少し路地に入ったところにあり人気がないが、表通りに出ると多くの居酒屋が立ち並んでいて、看板の明かりや客たちの笑い声で賑やかさに満ちていた。


夜のひんやりとした空気を深く吸い込む。お酒の匂いに混じって、春の匂いがしたような気がした。


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