どうにもこうにも~出会い編~
最寄り駅から徒歩5分ほどのところに俺が住んでいるマンションがある。俺は彼女をおぶってマンションへと向かった。寝ている赤子は重いとよく聞くが、その通りだと思った。石原さんに重いなんて言ったら怒るだろうが。

 家路に着くと迎えてくれるのは暗闇である。3LDKのこの部屋はひとり暮らしには少々広すぎるくらいだが、独身貴族だからこその贅沢と言えるだろう。彼女をひとまずリビングのソファに寝かせた。彼女をベッドに寝かせるために、寝室へ向かいベッドのシーツと枕カバーを変えた。

彼女を横抱きにして寝室に運び込み、ベッドの上にゆっくりと下ろした。

「やっ」

「!?」

 彼女の上体を寝かせようとすると、いきなり両腕俺の首に回してきつくしがみついてきたので、彼女の身体に覆い被さってしまった。それなのに彼女は俺の首にしがみついたまま離れない。

「石原さん離してください」

「ひとりにしちゃイヤ」

 彼女はまるで駄々をこねる子どもみたいにそう言った。俺は首にしがみつかれているせいで顔をベッドに突っ伏していたので彼女の表情は分からなかったが、きっと険しい顔をしているに違いない。

< 55 / 104 >

この作品をシェア

pagetop