もらってください、花宮先輩。〜君の初めてが全部欲しい〜



 ひくり、思わず笑顔が引き攣る。


 忘れられていた。けど、それは仕方ない。だったらちゃんと説明してお礼を言えばいい。


 気を取り直して再び話し出そうとした俺は、奈湖の表情を見て動きを止めた。



「────ねぇ、大丈夫……?」
「ん?何がですか?」
「何か、無理、してるような……気のせいかな」
「……え」



 奈湖の表情が、あまりに張り付けたような笑顔だったから。奈湖は俺の問いに動揺し、目を大きく開く。


 あの時の、周りに臆さず自分の意見を曲げず、自分の意思を貫いていた面影を全く感じられない。


 たった数ヶ月の間に、何が──?



「すいません。私このあと用事があるので、帰ります」
「え、ちょっと」
「さようならっ」



 奈湖は逃げるように、廊下の向こうへ走り去って行った。捕まえようとした手が空を掴む。


 変わってしまった奈湖、忘れられていた俺。妙な違和感。その中で一番気になったのは、なんだか彼女が……。


 ────苦しそうだった。


 俺はそこから、奈湖と徐々に距離を詰めた。直感から、なんとなく俺と奈湖に面識があることも伝えずにいた。


 奈湖の苦しんでる理由を知りたかった。そして、一緒に過ごすうちに、余計に彼女に惹かれていった。


 今度は救いたい。助けてもらった恩返しをしたい。奈湖の為なら何でもしてあげたい。傍で支えたい。


 そう思っていたのに。




 ────まさか、奈湖のトラウマとなった出来事の原因が俺だったなんて。


 これを伝えたら、奈湖は何と言うんだろう。



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