もらってください、花宮先輩。〜君の初めてが全部欲しい〜



「奈湖、おはよう」
「先輩、おはようございます」
「うわぁ、すごく可愛いね。いつも可愛いのに、まさかこんなに可愛さに磨きをかけて来てくれるなんて思っても見なかったから、今すごく嬉しい」
「……本当ですか?」
「うん。すっごく可愛い。……俺のため?」



 正面から両手を包まれ、にっこりとそれはもう幸せそうに微笑まれてしまうと、こちらまで心がポカポカと温かくなり、幸せになってしまう。


 しかも、俺のため? なんて……絶対に分かっているはずなのに。


 甘ったるい視線に耐えられなくなり、俯きがちに唇を開く。



「……今日、デートをする彼氏のためです」
「あはは、そっかそっか。彼氏も幸せ者だね」
「先輩もかっこいいです」
「そうかな?ありがとう」
「あと、来るのが早すぎます。待たせてごめんなさい」
「いいんだよ。俺が待ちたくて待ってたんだから」



 花宮先輩は満足したのか、握っていた両手を離し、私の右手を恋人繋ぎでぎゅっと握る。


 駅に向かう人の波に乗って歩き出し、先輩は私に微笑み掛けた。



「はぐれないでね」



 どうして、最後のデートの日に限って、こんなにもかっこよくて、こんなにも優しいんだろう。


 胸がちくちく痛んで、何も言えない。私は頷く代わりに下唇を噛んで俯いた。




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