もらってください、花宮先輩。〜君の初めてが全部欲しい〜
「……どうして?」
花宮先輩は目を大きく見開き、とても驚いた表情をしていた。
そして、私に伸ばした手で空を握り、ゆっくりと腕を下ろす。
先輩のとても静かな問いに、私は呼吸を整え口を開く。
「私は、充分先輩にはじめてを貰ってもらいました。……もう、平気です」
「…………」
「先輩はもう、自由になっていいんです。たくさん優しくしてくれてすごく幸せでした。だから────」
「何言ってるの?」
今まで聞いたことのないような、体温乗っていない、とても冷たい声だった。
私は驚き、言葉が詰まる。
いつの間にか観覧車は、天辺付近にたどり着いていた。
「自由になっていいって、なに? 俺がいつそんなこと望んだの?」
「それは、先輩が────」
「俺が奈湖と付き合ってから伝えてきた言葉、そんなに薄っぺらく感じてた?」
────感じるわけがない。だから余計に悲しかった。私は下唇を噛み締める。
花宮先輩は私に対して、追い詰めるような言葉を絶対に使わなかった。
なのに、今先輩の口から出てくる言葉は、私の逃げ場を確実に奪っていく。
だけど、あの日教室の前で聞いた言葉は、決して聞き間違いではなかった。でも、そのことを問い詰めるなんて私にはできない。
だって、『仕方なく』が答えなんだから。優しくしてくれた先輩の、隠している心の声なんだから。