もらってください、花宮先輩。〜君の初めてが全部欲しい〜




 観覧車がピタリと天辺にたどり着く。キレイな景色だ。先輩と乗った観覧車を、この時間を、私はきっとずっと忘れない。忘れられない。


 私は浅くなった呼吸を整え、膝の上でキュッと拳を握る。涙はいつの間にか止まっていた。



「私があげるよりも、ずっとたくさんのものを先輩から貰いました」
「…………」
「大丈夫。私はもう、私らしくいられます。だから先輩も、幸せになって下さいね」



 本当は一緒にいたい。花宮先輩が好き。大好き。


 だけど、先輩の幸せは私といることではない。


 私の下手な作り笑いを見て、花宮先輩は表情を固めた。


 瞳が揺らいでいて、その瞳に映る私はとても情け無い表情をしている。


 痛いほどの静寂、そしてやっと先輩が口を開く。



「俺も、奈湖が居たから自分を取り戻せたんだよ」
「……え?」
「幸せに、って……俺の幸せは俺が決めるものだし、俺が奈湖のはじめてを貰いたいと思ったから貰っていたんだ。一緒にいたかったから……俺は」
「先輩……」
「────けど、奈湖の幸せも、奈湖が決めるものだから」



 花宮先輩は、ずっとこちらに向けていた視線を落とす。



「……一緒にいることで、奈湖が幸せになれないなら、仕方ない」
「っ」
「たくさんのはじめてをくれて、本当にありがとう。こちらこそ……本当にもらってばかりだった」



 花宮先輩の声が、小さく掠れていて、涙腺が刺激される。


 泣くな、泣くな私。今泣くのはズルい。


 観覧車が、もうすぐ地上にたどり着く。



「────ありがとう奈湖、幸せになるんだよ」



 ────観覧車の中、最後に見た先輩は、とても傷付いた表情をしていた。


 観覧車から降りた先輩はこちらを振り返らず、私に言葉を掛ける。



「せめて、家まで送らせて」







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