もらってください、花宮先輩。〜君の初めてが全部欲しい〜




「──けど、その強さを別の方向に向けてもいいんじゃねぇか?」
「……別の方向に?」
「何もかも知ったつもりになって……自分の中で処理しようとするより、ちゃんと面と向かってお互いの気持ちを確認してからでも、終わりにするのは遅くないんじゃねぇか?」
「けど、それは」
「俺も、自分が我慢する方が楽だと思ってた。だけど、今考えたら簡単なことだったんだ。親に今の自分のことを、言葉にして伝えたら、環境が大きく変わった」



 香坂先輩は、一拍置いて口を開く。



「自分の気持ちなんて、シンプルなもんだろ。言い訳して気持ちを押し込めて、納得したふりなんてしてないで、気持ちをぶつける強さを持てよ」
「…………先輩」




「……頑張れ奈湖。もし、それでダメでも今度こそ奪ってやるから」



 香坂先輩は最後に私の涙を親指で拭い、身を翻して保健室から出て行ってしまった。同時に、休み時間終了のチャイムが鳴る。
 


 ──そっか、私、花宮先輩に直接話を聞いていない。聞く勇気がなかったんだ。


 仕方がないという言葉が本音だと、先輩の口から聞きたくなかった。逃げていた。


 先輩が好きだから、突き放されるくらいなら、傷付くくらいならと離れた。解放してあげなきゃなんて言い訳をして。


 納得したふりをして、怖がって、全部勝手に終わりにした。花宮先輩は、傷付いていた。けど、無理に納得してくれたように見えた。


 どう考えても、最低な私だけど、でも、それでも────。



「……ダメだ、大好きだ」



 また笑い掛けて欲しい、隣にいて欲しい、私の初めてを、もっともっともらって欲しい。


 ──その時、保健室のドアが開いた。先生が戻ってきたのかと思い、カーテンから顔を出すと、そこには……。



「……小森さん」
「広瀬、先輩」



 花宮先輩の元カノ、広瀬先輩が驚いた表情で立っていた。
 




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