もらってください、花宮先輩。〜君の初めてが全部欲しい〜
それくらいに、あの時期の奈湖は不安定さがあった。他の男に下手げに持っていかれて、傷付けられるくらいなら、多少強引な理由をこじ付けてでも、自分のものにした方が良いと思ったんだ。
誰よりも奈湖を大切にする自信だけはあったから。
「お礼は言えたの?」
「……言えてない」
「へぇ、意外」
「色々あるんだよ」
唯一心を許している異性の広瀬は、俺が奈湖を探していたことを知っていた。だけど、触れられたくない部分もある。
俺のせいで中学時代いじめに遭ってしまった奈湖。いつか、いつか打ち明けなければと思っていた。
ありがとうとごめんを伝えなければと。
けど、打ち明けて奈湖が離れていくのが怖かった。
だから、一緒に過ごす月日の中で、いつか必ず伝えよう、伝えなければと、後ろめたい気持ちが心の奥底にずっとあった。
想いが通じ合っても、俺は一歩を踏み出せなかった。
────だから、これは卑怯な俺への罰だったのかもしれない。
奈湖は、俺から離れていった。