もらってください、花宮先輩。〜君の初めてが全部欲しい〜



 高野さんも、俺に対する態度が他の女子とは違う。だから、告白ではないはずだ。


 高野さんの後に続き、人気のない非常階段の方向へと廊下を進む。そして高野さんは、周りから人気がなくなったことを確認し、俺を振り返った。



「二人が何で別れたのかは知りません。けど、小森さんの元気がずっとないんです」
「……奈湖が?」
「私、小森さんに助けられたんです。だから、放っておけなくて。余計なお世話かもしれないけど……本当に、お互いが納得いくように別れたんですか?」



 高野さんの問いに、俺は上手く答えを返すことが出来なかった。


 納得なんてできない。しているふりをしただけ。じゃあ、奈湖はどうだったんだろう。


 何に対して、あんなに辛そうにしていたのか。どんな思いで別れを切り出したのか。


 俺は非常階段の壁に寄りかかり、首を横に振る。高野さんは冷静な表情で俺を見つめていた。



「……納得なんて、時間が経った頃にやっとできるものだと思うよ。奈湖の気持ちは、分からない」
「だったら、聞いてあげてください」
「聞かれたくないこともあるでしょ」
「小森さんは、自分に降り掛かるかもしれない、辛いこと悲しいことを予測していながらも、それでも飛び出してしまうような子なんです。良いことはいい、悪いことは悪いと、口に出せる人間です」
「…………」
「絶対に……多分、理由があります。話せない理由が」



 高野さんの感情的な声が、非常階段に反響する。


 知ってる。奈湖のことは、なんでも。俺だって、分かってる。



「…………」
「お願いします。無理に復縁しろなんて言いません。だけど、最後に一度だけ納得いくまで話し合って下さい」



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