もらってください、花宮先輩。〜君の初めてが全部欲しい〜
高野さんはぺこりと頭を下げ、身を翻し去っていってしまった。
取り残された俺は、足の裏が地面に張り付いたように、その場から動けない。
「……カッコ悪い、臆病者」
脳内で、高野さんの言葉が何度も繰り返される。
『小森さんは、自分に降り掛かるかもしれない、辛いこと悲しいことを予測していながらも、それでも飛び出してしまうような子なんです。良いことはいい、悪いことは悪いと、口に出せる人間です』
奈湖は強い人間だ。けど、弱い人間と同じように傷付く。散々傷付いて、自分らしさを失っていた。
一方的な別れだった。辛そうな表情だった。深追いできなかった、しなかったのは、俺が全てにおいて臆病だったからだ。奈湖の本音に寄り添えるほどの懐の深さがなかった。
聞けばいい、向かい合えばいい。過去のことも全部、それで例え軽蔑されても、何度も何度でも謝ればいい。俺が弱かったせいでごめんと。
それで、許してもらえなかったらその時はその時だ。
「まだ、間に合うのかな」
臆病者の恋を、今日で終わりにしたい。
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