若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「力はそれほど入れる必要はない。今は力を抜いて」

 筆ペンを握る手が震えてきそうだ。絢斗さんは私の手で練習帳に〝あ〟と書き、手本を見せてくれる。

「こうすれば墨が滲まずに綺麗に書ける。ほらな?」

 続けて、〝い〟から〝こ〟まで、私の手を握ったまま彼は上手な字で綴る。

「どうした? 反応が鈍くないか?」

 ドキドキしている鼓動が邪魔をして、声を絞り出す。

「わ、わかりました。やってみます」

 練習帳に視線を落としたまま返事をして始めようとしても、彼の腕は解かれない。それどころか少し抱きしめられている感が強まった気がする。

「……若旦那さま、離れてください」

 そう言ったのに、前触れもなく私の頬に絢斗さんの唇が触れ、ビクッと肩を跳ねさせて彼の方へ顔を向けた。

「澪緒の反応がいちいち可愛いから触れたくなった」

「ぎょ、業務中です」

 口元を軽く緩ませた不敵な笑みに、このままでは心臓がもちそうもない。

「……離れてください。不意打ちのキスはやめて」

「じゃあ予告すればいいのか?」

「そ、そういうことでは……」

 一昨日の夜から、急に甘くなった絢斗さんに戸惑ってしまう。

 彼はふっと笑ってから離れた。
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