若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
 白檀の香りがすっと遠のき、絢斗さんは執務デスクに戻っていく。

 執務デスクに座る彼からは私の横顔が丸見えで、筆ペンを動かしながらも絢斗さんの視線をひしひしと感じる。

 なんだかからかわれている気がする。

〝さ〟とゆっくり書いてから、絢斗さんへ顔を向ける。

「若旦那さま、お仕事してください」

「俺のことは気にせずに書けよ」

「そんな……気にせずにって、気になります。商談ルームで勉強して――」

「わかった、わかった。見ないからそこでやってろ。商談ルームはふたつともこれから客が来る」

 そっか。商談ルームが使えなくなるから、ここでやらせたのね。そばにいてほしいのかと思った。

 絢斗さんの一挙手一投足にドギマギした自分を心の中で笑った。


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