若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「あら残念」

 口ではそう言うが、特に残念がっているようには見えない。俺の考えを読んでいたのだろう。

「食事に行きましょうか」

 俺は椅子から立ち、寿葉さんと連れ立ってラウンジを出る。

 すると、ホテルのロビーの一角で艶やかな長い髪の女性に目を留めた。

 さっきの彼女だ。

「今時めずらしく、絹のような御髪の女性ですわね。顔立ちも美しくて。一緒にいるのは……西澤(にしざわ)さまだわ」

 チャコールグレーのスーツ姿の恰幅のいい男性で、頭髪には白髪も見える。

「西澤? 着物のレンタル会社を経営している?」

「ええ。ご存じでしたか。着物レンタルの事業を展開している株式会社NISHIZAWAの社長ですわね」

「何度か会ったことがある」

 女性の父親ほどの年齢にも見える男はポケットから財布を取り出し、現金を渡そうとしている。

「時々見えられますの。あらあら、今、パパって。たしかお子さんは息子さんがひとりと……」

 あの女性のパトロンなのか? 人が行き交うこんな場所で平然と金を渡すとは。

 俺は嫌悪感を覚え、顔を歪めた。

 モラルに欠けた行動を目にして気分が悪い。

 男性と美しい髪の持ち主はエレベーターホールへ消えていった。
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