若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「済みました」

 身支度を整えていた俺は、鏡の中の姿を確認しながら祖母へ声をかける。

 壁半分に鏡が埋め込まれ、和ダンスが並べられた二十畳ほどのこの部屋には、代々受け継がれている着物が多数保管されている。

「入りますよ」

 直後、襖が開けられた。

「まあ! なんて素敵なんでしょう。高貴なお色味が絢斗さんによく似合っていますこと。まるでおじいさまを見ているようですよ」

 十年前に病気で亡くなった祖父の若い頃に似ているらしい。祖父は美丈夫で芸子たちにモテていたらしく、祖母は若かりし頃を思い出すと話が止まらなくなる。

 しばらく付き合うことになるが、聞き飽きている話だ。写真ではたしかに背格好は似ているが、そう思うのは祖母だけのようだ。
 
 今日の祖母は、灰味のある淡い青色の舛花色の色留袖を着こなしている。この日のために新しくあつらえたものだろう。

「おばあさまも素敵ですよ」

「主役は絢斗さんですよ。私は絢斗さんの引き立て役に徹しますから。たくさんのお嬢さま方とお話ししてくださいね」

 祖母は期待を込めて瞳を輝かせている。そんな様子を見れば、曖昧に笑みを浮かべ頷くしかない。
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