若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「おばあさまが気に入らない女性だとしても、俺が惹かれた場合、口を出さないでいただきたいのですが」

「まあ、招待客のお嬢さま方を私が気に入らないはずはないわ。絢斗さんにお任せしますよ」

「ありがとうございます。では参りましょう」

 俺は祖母を促し、玄関へ向かう。

「大奥さま、若旦那さま、行ってらっしゃいませ」

 玄関で待っていたのは、住み込みの江古田(えこた)夫妻だ。六十代前半の夫婦で、白い割烹着姿の芳(よし)子(こ)さんは料理や通いの家政婦への指示を担当している。夫の利幸(としゆき)さんは屋敷の細々とした雑務をこなす執事のような存在だ。
 
 ふたりは揃って頭を下げる。俺と祖母は綺麗に並べられた草履へ足を入れた。

 玄関を出て敷石の上を歩き十メートルほど先にある門へ向かう。

 この一帯の地主である御子柴家の敷地は三百坪程度。庭は庭師が丹精込めて手入れをしており、常に美しく整えられている。

 門先にはいつものハイヤーが待っており、そこに撫子色の色留袖を着た翠子が立っていた。

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