エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。
しばらくすると、ほぼ一月ぶりに目にする、窪塚の住む近代的でスタイリッシュな高層マンションの建物が姿を現して程なくして、車は誘われるようにして地下駐車場へとゆっくりと進んでいった。
ここに着くまでの間、八月を目前に控えた夏のギラギラとした強い日差しが燦々と降りそそいでいたというのに、それが嘘だったかのように、シンと静まりかえった人気のない駐車スペースはほんのりと蒼白い照明に照らされていて、やけに涼しげで。
なんだか別の空間にでも迷い込んでしまったかのような、そんな錯覚に陥りそうになる。
そのせいか、車内という密室で、窪塚とふたりっきりだということを意識してしまい、途端に、私は妙な緊張感に襲われた。
そわそわと急に落ち着かなくなってきて、とにかく早くこの空間から出ないと。なんてことを思い慌ててシートベルトを外そうと金具をカチャカチャさせもたついていると。
「……ん? あー、そんなに焦んなくても。どれ、貸してみ?」
私とは正反対で腹が立つほど普段通りで、難なくシートベルトを外し終えたらしい窪塚からそんな声が聞こえてきたかと思ったときには、もう既に眼前に窪塚の端正な顔が迫っていて。
その至近距離に、たちまち私の心臓はもの凄い速さで早鐘を打ちはじめる。
私は知らず知らずのうちに、いつもの如く瞼をギュッと力任せに閉ざしてしまっていた。
ーーお願い。はやく離れて。そうじゃないと心臓がもたない。それに顔が赤くなっちゃうじゃないか。
ここに来るまでの間にも、酷使してしまっている心臓と熱くなってきた顔のことを懸念していた私の願いも虚しく。
「……お前、そんなに意識しなくても……。今日は何もしないって言っただろう?」
すぐ傍で、ふっと柔らかな笑みを零した窪塚から、私の心の中などお見通しだとでもいうように、そんな言葉が聞こえてきて。
「だ、だったら、さっさと離れなさいよッ」
恥ずかしいやら悔しいやらで、瞼は閉ざしたままで、なんとか放った私の言葉も、いつもの強引さを発揮してきた窪塚によって完全にスルーされて離れてはもらえなかった。