エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。

 一応、さっきの件については医局に戻る途中でちゃんとお礼だって伝えてあったけれど。

 これまでは周囲に同僚の誰かしらが居て、こんな風に窪塚とふたりきりになったことなどなかったこともあり、それきり押し黙ったままだった。

 でも本当は、ふたりきりだという気まずさよりも、窪塚に『外科医なんて向いてないからやめておいたほうがいい』そう言い渡されてしまうのがなにより怖かったのだ。

 確かに、窪塚が言おうとしていたように、人には誰だって向き不向きがあると思う。

 私だって、そんなことくらい分かってはいる。

 頭では分かってはいるけど、誰にだって譲れないことがある。

 本当は、研修医になる前から、外科医になるのは無理だろうことは分かってはいた。

 それでも、それを他の誰かに言い渡されるのは嫌だったのだ。

 とことん頑張って、それでも駄目ならキッパリと諦めるつもりだった。
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