エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。

「……あ、否、とっても似合ってるよ。見違えた」

「ハハッ、加納ってば、そんなに気遣うことないのに」

「いやいや、本当に。あんまり綺麗だったから、思わず見惚れて……。あっ、ごめん。今のセクハラだよね? ほんとごめん」

「……やだなぁ、セクハラだなんて。ははは」

 穏やかな性格でいつも落ち着いているはずの加納が見るからに、いつになくテンパっていて。

 ひどく焦ったように、額にはタラタラと汗まで滲ませ、メガネを薄っすらと曇らせてしまっている。

 いつもスッピンに近い私がバッチリメイクなんかしてたもんだから、驚いてマジマジと見てしまったために、なんとかフォローしようとしてくれているんだろう、ことは分かるんだけど……。

 今の今まで、誰かに面と向かって『綺麗』だなんて言われた経験もなく。

 ましてや、真面目な加納が相手なだけに、こういう時、どういう反応を示せば正解かがまったく分からない。

 普段、仕事のことで話すことはあっても、加納とこんな話しなんてしたことがなかったから余計だ。

 ーーさて、どうしたものか。

 加納と向き合ったまま、互いに愛想笑いを浮かべつつ、頭の後ろを手で掻きながら次の一手を探っている時だった。

 背後からつかつかと誰かが足早に歩み寄ってくる足音が耳に届いて、誰だろうと横目に確認しようと思った時には、背後から、グインッと強い力で肩を抱き寄せられてしまってて。

 何がなにやら状況を把握できないでいる私の眼前の加納の表情から、どうしたことか、さっきまでの焦りの色が瞬く間に消え失せ、驚愕の表情へ変貌し、それがみるみる怯えたようなものになっていく。そこへ。

「珍しい組み合わせだな。で、ふたりで仲良く何を話してたんだ」

 仕事あがりで疲れてでもいるのか、窪塚の途轍もなく不機嫌そうな低い声音が轟いた。
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