堂くん、言わないで。


とにかく、おいしいと評判だったマフィンを堂くんにも食べてみてほしかった。



「シナモン入ってるけど、嫌いじゃない?」

「うん」

「そっか。じゃあこれ、はい」


堂くんがうんって言った、と内心ちょっと興奮しながらマフィンを渡す。


だけど堂くんはなぜか受け取らなかった。



んん……?


この体勢ちょっとしんどいから、はやく受け取ってほしいんだけど……


自分の肩越しに、マフィンを持った右手を回している状態。

ぷるぷるとふだん使わないところの筋肉がふるえる。



「食べさせて」

「えっ」


まさかの提案にもうすこしでマフィンを落としそうになった。



「手、塞がってる」

「それは離したらいいのでは……?」


塞がってるもなにも、わたしの身体に手を回してるだけ。

どうだって自分で食べられるだろうに。


テディベアよろしく抱きかかえられているわたし。


すこし迷って、口に運んであげることにした。


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