堂くん、言わないで。


悶々としながら書架をめぐり、意味もなく本の整理をしていたら。



「安藤みくる」


すぐ後ろでそんな声が聞こえて。

えっフルネーム?と思うのと、身体を半回転させられたのとどっちが早かったか。



「っ……!」


もちろん、わたしにこんなことする人なんて。

堂くんしかいなかった。


あっという間に、向かい合うような形になってしまう。



あわてて逃げようとしたけど、逃げ道を塞ぐように両手を書架に伸ばされて。

いとも簡単に腕のなかに閉じ込められてしまった。


ふわりと堂くんの匂いに包まれたように思えて。

かあっと耳の後ろから赤くなっていく。


どうか顔には出ませんように、と祈りながらわたしは視線を斜め下にした。




「わ、わたしね。人の目、見るの、慣れてないの……」


なにか話さなきゃ、と思ったらたどたどしい口調になってしまった。


本の整理はできても頭の整理は一向にできない。


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