堂くん、言わないで。
そんな気持ちで過ごしていたかもしれない。
ずっと頭のなかに居座っていた堂くんが、現実に飛びだしてきたのは。
あまりにも考えすぎていたからかもしれない。
「あれ……?」
おつかいの帰り。
近道だからと歓楽街を通り抜けようとしていたわたし。
一瞬、見まちがいかと思った。
ごしごしと目をこすってみても、すこし離れたところにいるのはまぎれもなく堂くんで。
憂いを帯びたような横顔は道行く人の目を惹きつけていた。
だけど堂くんはそんなのお構いなしで、どこかへと歩いていく。
その先にあるのは歓楽街でも、とくに治安の悪いとされる地区だった。
「どこいくんだろう」
気になる、だけど。
歓楽街にいるところを先生に見つかったら、叱られる。
気になる、叱られる。
そのふたつの感情がせめぎ合い、焦りとなって背中に募りはじめた。
堂くん、見失っちゃう……
気づいたらわたしは堂くんのあとを追いかけていた。