堂くん、言わないで。


死んだ……?

だれが死んだの?


それとも殺した、ってこと?

……いや。
それは違うと思う、さすがに。



ケンカというか、言い合いというか。

たしかに堂くんが一方的に話してるだけだった。


相手の男の人は面倒くさそうにうなずいている。



仲裁に入る勇気はなかった。

すこし離れた物陰からじっと身をひそめ、見守るしかできない。


堂くんの顔は見たこともないくらい険しくて、なんだかすごく怖かった。



そのうち相手が堂くんを振り切って、歓楽街へと消えていく。


堂くんはそれを追いかけることはせずに、その後ろ姿をじっと見つめていた。



「っ、はぁ……」


一連の流れを、わたしは息をとめて見入っていたらしく。

すこし荒くなった呼吸を落ち着けるように、何度か深呼吸をする。


物陰に顔を引っこめ、縮こまった瞬間。

はっとした。


< 88 / 257 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop