堂くん、言わないで。
「ひとりでこんなとこ来んなよ」
「っ、でもそれは……!」
堂くんだって同じじゃん。
ここ、危ないよ……
なんて、そんな言葉は言えるわけもなく。
「……ごめんなさい」
怒られたことと、盗み見してしまった罪悪感がないまぜになった。
しゅんとして素直に謝ると、大きな手が頭の上に乗せられて。
身体を離した堂くんにつられるようにわたしも顔をあげる。
そこにはいつもの堂くんがいて。
それだけなのに、なんだか無性にほっとした。
「帰るぞ。送るから」
わたしは気づかなかった。
帰るとき、堂くんがちらりと歓楽街の先へと目をやったことも。
いつも通りだと思った瞳の奥に、剣呑な冷たさを宿していたことも。
このときはまだ気づかなかった。
堂くんがなにを抱えているかなんて、なにも。