堂くん、言わないで。
申し訳なさからわざと明るい声を出す。
「堂くんの家もこの辺りなの?」
「いや、駅の向こう」
「えっ逆方向じゃん。送ってくれなくて大丈夫だよ」
堂くんはわたしの言葉を無視して歩いていく。
このまま道案内しなくても、どんどん先に行ってしまいそうな雰囲気すらあった。
あわててとなりに並んだわたしは、堂くんの袖をきゅっとつかんだ。
「帰るの遅くなるよ」
「……いいって」
ゆるりと見おろされ、面倒くさそうに腕をふりほどかれる。
行き場を失ったわたしの手。
指先。
それを強引に絡めとるようにして、つながれる。
もう夏も本番だというのに堂くんの手はやっぱり冷たくて。
いまはその冷たさがすこしだけ心地よかった。
……お言葉に甘えよう。