堂くん、言わないで。
「ありがとう堂くん」
「別に。……いつもの礼」
その言葉に、おおげさってくらい反応する。
そうだ、お礼だ。
この前のキスも、お礼?
……どうしよう。急に思い出しちゃった。
あんなに悩んでたのに、なんで一時でも忘れちゃったんだろう。
さっきまでの和やかな気持ちはどこへやら。
夕焼けのコントラストは穏やかでも、わたしの心はぜんぜん穏やかじゃなかった。
──────なんて聞こう?
あのときのキスもお礼だったの、って?
そんなド直球な聞き方アリ?
でも堂くん、キスのことぜんぜん触れないし。
もしかしたら忘れてる……!?
わたしが追及したことによって「あーそういえばそんなこともあったな。で、それがなに?」ってなるのがいちばん嫌だ、いちばん恥ずかしい。
悩んで、すごく悩んで。
わたしはひとつだけはっきりさせておくことにした。
「堂くんは付き合ってる人とか、いる?」
「いるならこんなことしねーよ」
「だよね」
ほっと安堵の息を吐く。
ん?となる。
わたしなんでほっとしたんだろう。