交際期間0時間の花嫁 ――気がつけば、敏腕御曹司の腕の中――
 ドアを開けると、先生は長瀬さんのそばに立って、小さな箱みたいなものを見ていた。私に気づいて、笑顔で頷いてみせる。

「呼吸も問題ないみたいなので、僕はこれで失礼します」
「それで……わかるんですか?」
「ええ、篤人は大丈夫ですよ」

 先生が手にしていたのはパルスオキシメーターという機械で、指の先につけ、表示される数値で呼吸状態がわかるそうだ。

「ほら、篤人。取りあえず寝室に行くぞ。ちゃんとベッドで休んだ方がいい」
「……ふぁい」

 北山先生に促されて、長瀬さんがだるそうに身を起こす。
 二人の年齢差のせいなのか、その反応はいやに素直で、なんだか驚いてしまった。もしかしたらすごく具合が悪いせいかもしれないけれど、

 とはいえ、視線も定まらず、とてもひとりで歩ける状態ではない。
 私たちは両側から長瀬さんを支え、リビングルームの隣にある彼の寝室へと向かった。

「やれやれ。ったく、手のかかるヤツだ」

 長瀬さんをベッドに寝かせ、洗面所で手を洗い終えると、北山先生は苦笑いしながら帰り支度を始めた。

「処方箋を書きましたので、薬局で解熱剤を出してもらってください。近くにありますから」
「はい、本当にありがとうございました」
「いえ、慣れてますから。篤人は昔から、ここぞという時には自分の限界を忘れちゃうヤツでね。今回もいろいろ無理して、こういうことになったんだと思います」
「ここぞという時?」

 長瀬さんにとって、今はそれほど大事な時機なのだろうか?
 そういえば、アメリカからの帰国日も予定より早まった。だが、いったい何のために、倒れるまでがんばったのだろう?
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