恋愛タイムカプセル
「そういえば、朝陽王子様のこと好きだったよね。来てたらよかったのに」

 美緒は残念そうに言った。

 しかし、朝陽はあまり残念ではなかった。春樹くんが同窓会に来ることも知っているし、なんなら彼と恋人同士になっている。むしろ、このまま隠しておきたいような気持ちだった。

「そうだね……」

「成長した王子様かあ。きっと格好良くなってるんだろうな」

 ────美緒の期待を裏切ることになるなあ。

 そんなことを考えながら、私は何も知らないふりをして相槌を打った。

 けれど恋人同士であることを、美緒には話してもいいかもしれない。美緒は高校時代、私の恋話に付き合ってくれた数少ない友人だ。口は硬い方だから信頼できる。

「あのね、美緒。実は────」

 話そうとした瞬間だった。会場がやや騒がしくなって、私はハッとして視線を入り口の方に向けた。

 春樹くんが来たと思った。だってこんなに会場をざわつかせる人なんて、彼以外に想像できない。

 けれど私の視線が向いた先にいた人物は、あの春樹くん────ではなかった。

 私が驚いて声も出せない間に周囲にいる同級生達は湧き始め、あっという間に彼は囲まれてしまう。

 落胆の声はひとつも聞こえてこなかった。それもそうだ、今あそこにいる彼は、高校の時の王子様そのもの────いや、それよりも成長し、格好良くなった彼だったのだから。

 私が口も開けないでいると、美緒は春樹くんが来たことを知らせようと私の肩を叩いた。

「ちょっと朝陽! 春樹くん来てるよ!」

 美緒はかなり興奮していた。そうだろう。だって今あそこにいる彼は格好いい。多分、この会場にいる誰よりも。

 いつもみたいなダサい格好はしていない。グレーのジャケットを羽織って、少し濃い色のジーンズを履いて、アパレルショップにいるおしゃれな店員みたいだ。

 髪だってボサボサじゃない。ちゃんと櫛で梳かしているみたいだし、ワックスもつけているみたいだった。

 ────あれが春樹くん? じゃあ、いつも私が見てたのは?

 私の頭の中を疑問符が飛び交う。全く理解できない光景に頭がついていかなかった。

「もう、朝陽ったら。久しぶりに春樹くん見て驚いちゃったの?」

「……う、うん」

 驚いたなんてものではない。心臓が飛び出そうになった。

 私はしばらく彼を見つめ、考えた。今まで見てきた彼と、今あそこにいる彼。一体どちらが本物なのだろう。

 再会した彼はあんなにオシャレじゃなかった。冴えない、という表現がぴったりの幸薄そうな男性に見えた。

 しかし今あそこにいる彼は、再会する前、私が想像していた通りの彼だ。私は最初あんな彼に会えることを期待していた。

 なのに今、とても嬉しいと思えない。

 春樹くんはなぜ、私の前であんな格好をしていたのだろう。あんなにオシャレならあの格好でくればよかったのに。

 それとも今日が同窓会だから張り切ったのだろうか。じゃあ、私とのデートは?

 考えれば考えるほど混乱していく。彼の考えが読めない。
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