不本意な初夜でしたが、愛され懐妊妻になりました~エリート御曹司と育み婚~
「ほら……手」
「え?」
「躓いて転んだりしたら危ないだろ」
役所からの帰り道、不意にそんなことを言われてドキンと胸が高鳴った。
灯と手を繋ぐのなんて、子供のとき以来だ。
一瞬躊躇したけれど、ここで断るのも変な空気になるかも……なんて思った私が差し出された手を取れば、大きな手はまるで慈しむように私の手を優しく握り返してくれた。
「何か食べられそうなものがあるなら買ってくるけど、どうする?」
そのまま私達は恋人同士のように手を繋ぎ、ふたりで家路についた。
リビングにつくなりソファに腰を下ろした私を確認してから、灯が何気なく尋ねるので、また私は内心で驚いてしまった。
「ううん、大丈夫。灯が昨日買ってきてくれたゼリーがまだ残ってるし、やっぱり……なんとなく、食欲はなくって」
お腹が空いたという感覚もあまりない。
何より、一昨日スーパーの惣菜売り場に立ち寄ったときに、食べ物の匂いをかいだだけで胃からせり上がって来るような気持ち悪さと吐き気を覚えたことを思い出したら、とても食事をとる気にはなれなかった。