不本意な初夜でしたが、愛され懐妊妻になりました~エリート御曹司と育み婚~
「……ごめん。話はそれだけだから、帰るね」
「え? ちょっと牡丹、せっかくならもう少しゆっくり──」
私は母の制止を振り切ると、玄関の扉を開けて外に出た。
そして今すぐにでも駆け出したい衝動を精いっぱい押し込め、早足で歩いて敷地を出た。
ドクドクと心臓は嫌な音を立て続けている。身体には冷や汗をかいて、私は必死に浅い呼吸を繰り返した。
「ふ、う……っ、バカみたい」
門をくぐってアスファルトに足をおろした瞬間、涙があふれ出して止まらなくなって、そこから一歩も動けなくなった。
ほんと、情緒不安定で嫌になる。
こんなんじゃ、お腹の子を守ることなんてできないよ。
「っていうか、私に母親になる資格なんてなかったのかも……」
「牡丹……?」
と、つい弱音をこぼしたら、不意に名前を呼ばれて、私は弾かれたように顔を上げた。
「と、灯……? なんで……」
見ればそこにはなぜか、灯が立っていた。
私と別れたあと仕事に向かったはずなのに、どうして灯がここにいるの?
「牡丹のことが心配で……。仕事の方は、どうにか園宮に収めてもらって、牡丹が出てくるのを待ってたんだ」
そう言った灯は実家の門の前で立ち尽くす私のそばまで真っすぐに歩いてきた。
「ふたりには、ちゃんと報告できたのか? っていうか、なんで泣いてるんだよ」
「こ、これは、なんでもない……っ。ただちょっと、目にゴミが入っただけ」
慌てて涙を隠そうと、手を顔の前に持ってきた。
だけどその手はすぐに灯に捕まってしまい、私は反射的に自分の前に立つ灯を見上げた。