今日もお兄ちゃんの一途な恋に溺れる。
ポンちゃんを抱えて立ち上がる。


両親には気づかれないように廊下を忍び足で移動した。


彼の部屋のドアを開けて灯りのスイッチをつける。


いつものようにきちんと整理整頓された部屋。


ここにくるのは凄く久しぶりのような気がする。以前は毎日のように入り浸っていたのに。


「あ……」


机の上に置きっぱなしにされた携帯電話が1番最初に目に映った。


「なんだ、持って行かなかったんだ」


だから連絡が無かったのか、それなら仕方がないか。


そう思ったらちょっと胸のつかえがとれた気がした。


ベッドに寝転がると、かすかに彼の甘い残り香がして。


まるで、彼に優しく包まれているような気分。


心地よくて安心すると同時に、また寂しさがつのって目を閉じた。


「お兄ちゃん……翔くん」


会いたいよ……。


お願い、早く帰ってきて。


一晩離れているだけでどうしてこんなに恋しいんだろう。


結局その日私は不安と闘いながら、眠れぬ夜を過ごした。


だけど、そんな私の試練は1日では終わらなかったんだ。
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