あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。

尻もちを着いた男の子。
オレンジ色の水溜まり。
転がる紙コップ。

すぐにこの子がわたしにぶつかったのだと分かった。

きっと彼はジュースの入ったカップを持ったままわたしにぶつかったのだろう。

びっくりした顔をした小さな男の子の顔が、みるみる崩れていく。「あ、」と思った時には大きな声を上げて泣きだした。わたしは急いで立ち上がり、男の子に近づいた。

ぺったりと床に座ったままわんわんと泣きじゃくる男の子。彼の頭にそっと手を置いてから「大丈夫?痛かったよね」と言って優しく撫でると、びっくりしたのかその子はピタリと泣き止んだ。

「おっ、さすが男の子!強いのね、かっこいい」

目を見てにっこりと言うと、男の子は涙目のまま嬉しそうな笑顔を浮かべた。けれどすぐ、わたしの足元を見て、「じゅーしゅぅ……」と口をへの字に。あ、また泣きそう。

「ジュース、ママが買ってくれたのかな?」

「ぱぱぁ」

「そっかぁ。じゃあお姉ちゃんとパパのとこに行こう?ジュース、もういっこ買ってもらえるように、パパにお願いしてあげる」

わたしがぼうっと突っ立ってなかったら、この子もぶつかってジュースを落とさずに済んだはず。この子のパパにはわたしから謝って、ジュース代を渡そうと思った。

もう一度ジュースが買ってもらえると分かったのか、その男の子は「うんっ」と頷く。

(可愛い……)

こぼしたジュースはスタッフがすぐに気が付いて片付けに来てくれたから、お礼を言ってわたしは男の子とパパのところへ。

アキのことが気になってチラリと視線を送ったけれど、コンシェルジュさんと話し中みたい。
男の子がロビーの端のソファーコーナーを指して「ぱぱ」と言ったので、すぐそこだからとそのまま彼のお父さんのところへと向かった。

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