あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
キングサイズのベッドの上で激しく揺さぶられるわたしは、ただ喘ぐことしか出来ない。
「―――可愛い、吉野」
「はぁ」と色っぽい吐息を漏らしながら、彼が掠れた声で囁く。
わたしはせり上がってくる快感の波をやり過ごす必死。なのに、今度は首筋に生温い感触がした。
耳のすぐ下で「じゅっ」という音。そのすぐ後にチリっと熱い痛み。
ぞわりとした痺れが腰に伝い「ぁっ、」と小さく喘ぐと、「吉野はどこもかしこも甘くて美味いな」と耳の中を舐められた。
低く掠れた声と熱い吐息に甘い愉悦が這い上がり、自分の内側からせり上がってくる感覚に喘ぎ悶える。
細くなった視界には、額に汗を浮かべ苦しげに眉を寄せるアキ。
劣情を滲ませた声すら甘い刺激となって、わたしをどんどん追い詰めていく。
大嫌いなはずの『吉野』という名前が耳に届くたび、胸が甘く高鳴って堪らない。
これまでずっと、その名前を呼ばれることに嫌悪感しか湧かなかった。あんまりにわたしが嫌がるものだから、友人や同僚、歴代の彼氏たちもわたしのことを『静』と呼んだ。家族以外でわたしを名前で呼ぶ人はいなかった。
だけど、今。
お砂糖をたっぷりまぶした甘い声で大事そうに呼ばれただけで、自分の中に凝っていた何かがとろりと溶けていく気がする。心臓がちくいち「きゅんっ」と甘い音を立てる。
耳の中に艶やかな声を吹き込まれて、何を言われたのか理解する前にこくこくと肯いた。
「素直な吉野も可愛いな」
そう呟いた彼に、わたしはただしがみつくことしか出来なかった。
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