あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
Interlude*三つ揃えを脱いだネコ side Akiomi
[1]


右腕に何かが乗っている。
ずっしりと感じる確かな重みで目が覚めた。

「あ……、」

出した声を慌てて引込める。長い睫毛が伏せられた瞳と、淡く閉じられた唇が目の前にあったからだ。

幸い、彼女は僕の声にピクリとも反応することなく、すやすやと寝息を立てている。

(そうか、結局あのまま……)

腕の中にいる人も自分も何も身に纏っていない。抱き合った後、腕枕のまま眠ってしまったのだ。

規則正しく上下する白い胸が目に入り、その柔らかさと弾力を思い出して手を伸ばしかけたが、すんでのところで思いとどまった。泥のように眠る彼女を起こすのは忍びない。

自分で思っていた以上に(たが)を外しすぎてしまったんだな―――。

だけど、それも仕方のないことかもしれない。これまで散々“お行儀よく”我慢していたのだから。
己を律しすぎるとそれが外れた時の反動が大きいということを、つい最近思い知ったばかりなのだ。


『“ルール”を守らないお行儀の悪い子は、うちには置いてあげないからね!』

彼女のセリフを忠実に(・・・)守っていた結果こうなったのだから、彼女にも責任はあるんじゃないだろうか。
もっとも、そんなことを本人に言おうものなら、ものすごく可愛い(・・・)顔で怒られるだろうけど。

怒った時にこちらをじっとりと見上げてくる顔を思い出して、口の端がゆるゆると持ち上がっていく。


怒ったり笑ったり困ったり泣いたり。

年上とは思えないほど、くるくると表情を変える彼女。その飾らない表情から目を離せず、気付いた時には好きになっていた。

「可愛い――」

彼女を起こさぬよう、音にはせずにそっと囁いてから、ふっくらとした唇に自分のものを重ねる。少し乾いてはいるがそれでも甘い。
もっと濃く甘い場所へ舌を差し込みたくなるのをぐっと(こら)えて、ゆっくりと離した。

窓の外はまだ暗い。疲れ切った彼女をもう少しこのまま寝かせておいてやりたい。

(最初に出会った時には、まさかこんなことになるなんて思わなかったのにな……)

その寝顔を眺めながら、僕は“あの日”のことに思いを馳せた。


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