あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
想いが通じ合ったことが堪らなく嬉しくて、再び焼き切れた理性。
それを取り戻させたのは、彼女の『両想いになって初めてがお風呂なんてイヤ』という、なんとも可愛らしいセリフ。
彼女が年相応に世慣れていることは分かっている。
最初の時、出会ったばかりの僕を家に招いたくらいだ。そのあとのことも然り、キスくらいでは動じないことも然り。
それなのに、そんなところには拘るのかと思ったら、年上には見えないくらい可愛く思えて、すごく嬉しくなった。
そして、どれだけ自分が余裕を失くしていたかを思い知った。
己の暴走を反省した僕は、彼女の希望を優先することにした。
だけど、やっぱり我慢したら我慢しただけその反動は大きくて、最終的にはこの有様。
ベッドの上では好きなだけ貪り尽くしたせいで、すべてが終わったあと彼女は半分意識を飛ばすように眠ってしまった。
でも我慢させたのは彼女なのだから、責任の半分は彼女にもあると思う。そう言ったら確実に怒られるだろうけど。
(僕はちゃんと勧告したからね……こうなったら逃さないって)
あとから「聞いてない」なんて言ってももう遅い。
堕ちてきたのは彼女自身。
受け止めたからには、絶対に離さない。たとえ本人がそれを望まなくても。
じりじりと焦がされるような痛みに眉を寄せながら、眠る彼女にくちづけを落とす。
乾いた唇を舌で少し湿らせてやると、むず痒そうに彼女が顔を動かした。
ほんの少しなぞっただけの唇はやっぱり甘くて、自制が効かなくなる予感が確信に変わりそうになる。
立春を翌日に控えた今。夜明けまでまだ時間はある。
きっと彼女が目が覚めたら、お叱りを受けるんだろうなぁ。
怒った顔も可愛いし、早く目を覚まして僕を見て笑顔になって欲しいとも思う。
だけどそれと同じくらい、もう少し休ませてあげたいとも思った。
数時間前まで我を忘れて貪るように抱き潰した自覚はあるから。
あどけない寝顔にもう一度軽くくちづけると、僕はそっとベッドから抜け出した。
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