あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
Chapter9*ビール売りの少女@三十路目前
[1]


ペタペタと、何かが額に押し当てられる。

「ぷにっ」というべきか、「ふにゃっ」というべきか。

とにかく柔らかくて温かいそれが、判を押すみたいにペタペタと顔のあちこちに移動している。

それだけでも十分に眠りを妨げられているというのに、柔らかな毛にも顔中をくすぐられて、わたしは目を閉じたまま「んん~」と唸りながら顔を横に向けた。


お布団の中はいつにも増してふかふか(・・・・)ほかほか(・・・・)

まるで羽に(くる)まれているみたいにふわふわして心地良い。

お姫様のベッドってこんななのかな。
生まれた時からこんなところで毎日眠っていたら、そりゃベッドのマットレスの下に豆粒置かれたら気持ち悪いよね。わたしなら絶対気付かないわ。

それにしてもここは最高に心地好い。温かくていい匂いがして、すっごく癒される。なんだか体がすごくだるいし、頭も重い。

ああ、まだ目を開けたくないな――。

わたしはまだまだ惰眠を貪っていたいのに、さっきからずっと“ペタペタ攻撃”が止まらない。

さすがに耐え切れなくなったわたしは、“目”は無理だけど“口”ならなんとか開けられた。

「ん、ハル……もうちょっと……」

だから、ご飯ならお母さんから貰てってば!わたしは、今日お休みなんだから。

こちとらお姫様とは程遠く、毎日汗水たらして労働に勤しんでいるの!だから、少しくらいゆっくり寝ててもバチは当たらないでしょ?寒い中凍えながらマッチを売った少女ほどじゃないとしても、寒い中毎日毎日ビールを売って歩いているのだ!

あ!試飲ビールは無料(タダ)だし、わたしが歩きながら売るのは愛想だけだけど、そこはものの例えってもんですから!誤解無きよう!えへへへ。

なんにしても頑張り過ぎて(・・・・・・)体が重いから、まだまだこの心地好い場所に埋もれていたいの。
幸い今日は、お仕事は休み。こんな日くらいゆっくり寝かせておいてよ。

体ごと反対を向こうとしたら、相手もしびれを切らしたのか鼻の先をペロリと舐められた。

「んっ、ハル~……だから~ご飯はお母さんから、」

あれ?……お母さん?
わたし、いつから実家に帰ってた……?

いやいや、さっき自分で「今日は休み」って思ったよね!?

「実家じゃなかった!」

言いながら目をパチッと見開いた。

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