あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
Chapter10*おしゃべりスズメのつづらにご用心?
[1]


「静川。ちょっといいか?」

「はい」

定時まであと一時間足らず。ラストから二番目の組でアテンド業務を終え、事務所のデスクで雑務を片付けていた時だった。

結城課長に呼ばれたわたしは、彼のあとについて事務所の隣にあるミーティングルームに向かう。
結城課長に続いて部屋に入り、ドアを閉めようとすると、「そのままでいいぞ」と声を掛けられた。どうやら悪いニュースではないらしい。

最近では社内セクハラやパワハラを防止のために、密室で社員が二人きりにならないようにすることがほとんど。社内コンプライアンスの一環だ。
けれど、他言無用で秘密裏に勧める計画や厳重注意事項の時は例外。前者も後者も周りに聞かれないよう配慮する必要があるからだ。

それでも、上司に呼ばれて緊張するのは変わらない。「どうぞ」と言われた場所にドキドキしながら腰を下ろすと、長方形の机を挟んだ向かいに結城課長も腰を下ろした。なのになぜか、彼はすぐには口を開かず、じっとわたしを見つめてくる。

え……、もしかしてやばいヤツ?わたし、気付かないうちに何かやらかした?

お客様からのクレームか、はたまた出勤シフトの調整で連続勤務のお願いか―――なんて、戦々恐々としていると。

「おめでとう、静川」

「はぇ?」

「おまえのコンペが通って、関西代表の一人に選ばれたぞ」

「えぇっ!」

驚いた。まさか自分が選ばれるなんて。

「ツアー見学参加者だけでなくそれ以外の方にも企画に参加してもらえるという、全方位参加型イベントが面白いと好評だったそうだ」

「そ、そう…なんですか……」

「なんだ?嬉しくないのか?」

「いえ……嬉しいです。ありがとうございます!」
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