あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
森ともあれからギクシャクしていた。
わたしも彼女と顔を合わせるのが辛くて声を掛けられなくなり、森の方もわたしと目が合うとすぐに逸らしてしまう。
だけど同じ職場で働く以上、顔を合わせないわけにはいかない。恋愛ごとで問題があったとしても、仕事は仕事。
わたしは折れそうになる心を奮い立たせて、何事も無かったかのように仕事に臨んでいた。
そんな中、事は起こった。
業務のひとつである売店商品の発注。
土日はツアー客が多いため、売店の商品も良く動く。そのため週の前半は発注業務と入荷した商品の品出しで、アテンド以外の仕事も結構忙しい。
その品出しの時のことだった。段ボールを開いたわたしは驚愕の声を上げた。
『なんでこんなに…!?』
グループ会社のウィスキーを使ったウィスキーボンボンが大量に入荷していたのだ。
その数、トータル二百二十個。
昔からの定番商品ではあるけれど、だからといってバレンタインが終わったこの時期にこんなに一気に入荷しても捌ききれないし置くところもない。
『なんで……発注したのは二十個だけだったはずなのに…!?』
わたしの悲鳴のような声がバックヤードに響いた。
すぐさま発注記録を調べると、わたしとは別にウィスキーボンボンを発注した人がもう一人。その人が発注した数が二百個だ。
ちょうどやってきた当人にわたしは詰め寄った。
『どういうこと森!なんで二百も発注したのよ…!』
『なんのことですかぁ?』
『ウィスキーボンボンよ!わたしの発注とダブってるうえに、二百二十個も来たの!』
『二百二十……』
『わたしが発注したのは二十個だけよ。残りはあなたよね』
『……静さんが発注しはったことは知りませんでしたぁ……でもぉ、わたしも二十個しか発注してませんけどぉ』
眉をひそめて「怒られる意味が分からない」という顔をする森に、わたしは開いていたパソコンの画面を見せた。
『ちゃんと発注記録が残ってるわ、ほら』
間違いなく担当者のところには【アテンド事業部 森希々花】とある。