あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。

(アキが帰ってくるのは明日かぁ……)

ビールが運ばれてくるまでの間に、スマホをチェックする。ついさっき職場を出る前に送ったメッセージは未読のまま。

(きっと忙しいんだろうなぁ、アキ)

社内での正式発表にはまだ至っていないが、水面下では新会社設立に向けて着々と進んでいるようで、その中心となっているCMO(アキ)はすいぶんとお忙しそうなのである。


先月末の本社プレゼン大会のあと、彼も関西(こちら)に戻ってきてはいるが、以前にも増して出張が多く、この一週間は再び東京本社に戻っていた。

出張や本社《あっち》へ行くことが多い彼とは、会えない時はまったく会えない。
彼が電話やメッセージをマメにくれるから、変に不安になったりはしないのだけれど。

(ま、こっちもけっこう忙しくしているしね……)

明日から新年度なのだからそれも致し方ない。特に寒さが和らいできたこの時期は、春休みとも相まって、アテンド業務も忙しくなってくる。

彼も忙しいがこっちも忙しい。社畜上等。労働は尊い。

(でも近頃は、森ちゃんがずいぶん頑張ってくれるようになったから、ちょっとはマシになったかも……)

本社コンペ大会のあと、森に『本社にね、すごく綺麗で仕事が出来そうな素敵な女性が居たのよ』と報告した。

わたしなんかよりもああいう人を目指した方がいいんじゃない?―――そう続けようとしたら、森は『東京の女になんか負けてられへんわぁっ!』とよく分からない闘志を燃え上がらせた。

そう言えば、あれから何かと慌ただしくて、森からまだ彼女の想い人の話を聞いていない。

だけどきっと、わたしの勘が正しければ―――。


< 388 / 425 >

この作品をシェア

pagetop