あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
(アキが帰ってくるのは明日かぁ……)
ビールが運ばれてくるまでの間に、スマホをチェックする。ついさっき職場を出る前に送ったメッセージは未読のまま。
(きっと忙しいんだろうなぁ、アキ)
社内での正式発表にはまだ至っていないが、水面下では新会社設立に向けて着々と進んでいるようで、その中心となっているCMOはすいぶんとお忙しそうなのである。
先月末の本社プレゼン大会のあと、彼も関西に戻ってきてはいるが、以前にも増して出張が多く、この一週間は再び東京本社に戻っていた。
出張や本社《あっち》へ行くことが多い彼とは、会えない時はまったく会えない。
彼が電話やメッセージをマメにくれるから、変に不安になったりはしないのだけれど。
(ま、こっちもけっこう忙しくしているしね……)
明日から新年度なのだからそれも致し方ない。特に寒さが和らいできたこの時期は、春休みとも相まって、アテンド業務も忙しくなってくる。
彼も忙しいがこっちも忙しい。社畜上等。労働は尊い。
(でも近頃は、森ちゃんがずいぶん頑張ってくれるようになったから、ちょっとはマシになったかも……)
本社コンペ大会のあと、森に『本社にね、すごく綺麗で仕事が出来そうな素敵な女性が居たのよ』と報告した。
わたしなんかよりもああいう人を目指した方がいいんじゃない?―――そう続けようとしたら、森は『東京の女になんか負けてられへんわぁっ!』とよく分からない闘志を燃え上がらせた。
そう言えば、あれから何かと慌ただしくて、森からまだ彼女の想い人の話を聞いていない。
だけどきっと、わたしの勘が正しければ―――。