私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない



 だけど。
 やっぱり気のせいだろう。

 その店員さんは初めて見る顔。
 だから店員さんも俺のことは初めて見るはず。


 そう思いながら飲み物を注文した。


「あっ、すみません」


 注文を終えた後。
 すぐにその店員さんに声をかけた。


「遥稀……店長さんはいらっしゃいますか」


 店内を見渡した。
 けれど遥稀の姿が見当たらなかった。
 なので訊ねてみることにした。


「今日はもう上がりました」


 そうだったんだ。

 ……なんか……。
 寂しい……。


 会えると思った。
 遥稀に。

 そう思ったのに。
 会うことができない。

 そう思うと。
 ますます募った。
 寂しさが。


 仕方がない。
 また来るか。

 そう気持ちを切り替えて。
 飲み物を飲む。



 しばらく、くつろぎ。
 店を出ようと会計を済ませる。


 外に出た瞬間。
 初夏の香りを含んだ風がやさしく吹いた。

 その風に包まれながら、ゆっくりと歩き出す。


「お客様」


 そのとき。
 後ろから声が聞こえた。


< 27 / 61 >

この作品をシェア

pagetop