13番目の恋人
 当然、私たちは会社では赤の他人で、仕事上、接点はほぼない。常務の仕事に彼が関わる時くらいだ。 だから会社で見かけても気づかない振りをするか、一礼する程度。彼はとても目立つのでつい目が追ってしまうけれど、そこは自制した。
 
 ここ最近では自制するのは、交際をまわりに気づかれたくないだけではなくなった。
 
 彼を見ると、つい抱きついたり、キスしたくなってしまうのだ。トリガーになるようなキスを思い出してしまうのだ。
 何ていうのか、発情期みたいだ。経験の少ない私は覚えたてのセックスにはまっているのか、おかしくなっちゃったのか。これが、サルになるってやつなのかな。
 
 ──少し離れたところに頼人さんの姿が見えて、唇に目が行ってしまい、慌てて顔を背けた。
 
 胸に手を当てて、ときめきなのか動悸なのかわからないけれど、治まるのを待った。大宮くんのからかうような目と視線があったけれど、何もありませんでしたけれど、とすましてみせると、大宮くんが吹き出すのが見えた。
 
 あー、会いたいな。って、今目の前にいるのだけれど。
 
『今日、待っててくれる?』
 会社を出る頃、頼人さんから入っていたメッセージに、その場からスキップしちゃうくらい喜んだ。
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