13番目の恋人
 いつものように嬉しさを目一杯顔に出して「ただいま」とドアを開ける頼人さんに、玄関でぎゅっと抱きついた。

「なーんだ、今日思いっきり顔逸らすから何か怒ってんのかと思った」
「だって、さ。家でこんな関係なのに、会社では素知らぬ振りとか……恥ずかしくて」
「あー、会社でも俺のこと、そんな目で見てるんだー、えっち!」

 からかう彼に、カッと顔は熱くなったけれど、その通りなのだから反論はしなかった。

「まあ、気持ちわかるなあ、家ではお揃いのパジャマか裸なのに、会社では服着てるのおかしいなあとか思うよね」
「着てなかったら問題ですけど……」
「本当だ、大問題だね」

 真顔で頷く彼は、私と発想は違うものの、彼は彼で会社でそんな事を考えてたりするんだ。

「真面目くさった顔で仕事して、頼人さんもそんなこと考えてるんだね」
「真面目……くさ?」
 
 頼人さんが顔をひきつらせた。
 
「いや、冗談だけど、でも誰知らない関係っていうの、ちょっと盛り上がっちゃう気持ちもわかるなあ」なんて、言いながら
 
 今日もお揃いのパジャマを着て、同じベッドへ入る。
 
「まともなデートも全然出来なくてごめん、本当は気になってたんだ。こうやって夜に会って寝るだけだろう?」
 
 こうでもしないと、会えないくらい忙しいのは知っている。それに、こうしたいのだから、仕方がない。
 
「しなくてもいいよ」って彼は言ったけれど
「私はしたいもん」そう言うと、彼は困ったように笑った。
 その後、困ったことになったのは私の方なのだけれど。幸せだ。
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